雑魚リーマンがなんやかんやで小説家になるまでのブログ

凡そ社会的地位の無い30代男性が小説家を目指す為のブログ

未読が既読に変わる刻-3-

www.miyazono-9ran.work


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茫然自失とまではいかないまでも、早くも二体分の遺体(内一人は生死不明だが)を目の当たりにした僕は、いよいよ憔悴していた。



各人の部屋を回るごとに欠損具合の著しい死体を、しかもそれぞれと拙いながらも何らかの繋がりがあった当事者的には、それなりに心に来るものがある訳で。



仮に僕が推理能力に恵まれた一流探偵であったとしたならば、感情の起伏など一切感じさせずに淡々と現場の検分を行いながらも真相究明に向けて最短ルートで物語を自発的に進めていくのであろうけれども。



悲しきかな、フィクションならばいざ知らず、現実は往々にして上手に事が運ばないものである。



最大であと八人分の惨劇をこの目に焼き付ける必要があるとして、果たして僕は正気を保っていられるのだろうかと訝しんだ。



(僕がそれまで無事だという担保も保証もないんだけどな)



自虐具合が酷過ぎる感が否めないながらも、歩みを止める事無く次の部屋へと足を運ぶ。


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「……隙ありっ!」


「おっぶぇ!?」


前提として隙があるかないかは置いておいて、完全無欠に不意打ちとしての一撃を後頭部に受け、産まれてから一度も出したことの無い様な呻き声というか奇声というかを上げながら、僕は階段の踊り場付近の手摺を辛うじて握り込んで、転倒を免れた様だった。


「しょうもな。そのまま転げ落ちた方が面白かったのに」


段ボール用紙で自作したであろう手製のハリセンをぱしんぱしんと叩きながら、大橋B夢(おおはしびーむ)は舌打ちをしていた。


「……相変わらず物騒だな君は」


黒と白を基調としたゴシックロリータな衣装に身を包み、群青色と青紫色と乳白色とが均一に混ざり合ったカラフルなロングミドルの髪が、ふわりと揺れる。


女子大生とは到底判別しがたい小学生以下の幼女の様相に相反して、その実やる事なす事が凶悪な彼女。


しかもそれが全て僕に対してのみだとかいう限定条件付きなのだから、猶更タチが悪い。


「物が騒がしいと書いて物騒、ぶっ・そ・う~~、なんて。お前に言われる筋合いはないね」


「いやさ……顔合わせるたびにというか顔を合わす前に危害を加えてくるじゃん、君ってば。自覚無かったらアレなんだけど、過去何か気に障るようなことを僕がしてた、とか?」


「はぁ↑あぁー↓。そこから? そんなに程度の低い地点からの問答を僕様がわざわざ貴重な時間を割いてお前如きとやらなきゃダメなワケ?」


お前如きとか言われてしまった。


「なんだろうなぁ、なんなんだろうなぁ、この無性に虚しいこの気持ち。酷く億劫で刹那的でー……って、あっ。ごめんごめん、ハエに成れないウジムシ以下の奴なんかに説明しても分かる筈ないんだったわ。今の聞き流して」


ころころと笑いながら謝罪風の罵倒を浴びせてくるB夢。


ぷにぷにと光沢艶やかな頬を全力でビンタしてやりたい気持ちに駆られるが、百歩譲っても相手は女性なので、昂る暴虐性を抑え込みながら、僕は乱れた服装を整える。


「まぁ別に良いんだけどね。僕以外の全員には可愛いマスコットキャラで通しているみたいだし。頼むから今度の旅行で暴れてくれるなよ」


「うわっ。これだけ敵愾心を向けられているにも関わらず参加しちゃうんだお前。面の皮厚過ぎだろ。窒息死すればいいのに」


「気に入らないのなら君が来なければいいだろうに」


「嫌だね。僕様が敬愛して止まない数々のお姉さま方とお泊りできる機会――千載一遇の好機を逃す手立てはないのさ!」


「ふーん良かったね」


「へーん良かったよ」


「じゃあそろそろ僕行かなきゃだし」


「Go away , fuck off.-おとといきやがれ-」


何故に英語?(しかもスラング)なのかと首を傾げながら、僕は目的地である博物館へと足を向け、歩き出していた。


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「仲が悪かったというか、一方的に嫌われていたからか関係は良好で無かったとしてもこれは――酷い有り様だな……」



天井よりぶら下がっている彼女の生首を見、僕はそう呟いた。



こめかみの辺りを貫通したバールの両端には電気コードが乱暴に括り付けられていて、且つ額に生やしたナイフは柄の部分までめり込んでいた。



首から下の胴体部は室内には見当たらず、後方壁面には血文字で大きく「ごめんなさい」という平仮名が書き殴られている。



小村さん以上にグロテスクな遺体を目の当たりにしながら、しかし僕は二度目の嘔吐感を覚える事は無かった。



日常から非日常への移行より間もなく1時間程度が経過し、どうやら僕は正常から異常へと感覚が麻痺してきているのだなぁと、人知れず思ったのだった。