雑魚リーマンがなんやかんやで小説家になるまでのブログ

凡そ社会的地位の無い30代男性が小説家を目指す為のブログ

【不定期連載】新説・笠地蔵 -朽-

・前回・

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回想、終わり。


閉じられた目を開いて儂は再び立ち上がり、眼窩の裏側をかりかりと掻きながら、薄暗い土間を徘徊する。


肉片で溢れかえった惨劇の場を、よたよたと歩き回る。


あれから何時間が経過したのだろうか。日の光が窓から射していない事を踏まえれば、おそらく未だ夜中なのであろう。


などと胡乱な思考であったからか、木目に染み入った乾き切っていない血に足を取られ、儂は盛大にその場で転倒した。


後頭部をしこたま打ち付けるも然程痛みは無い癖に、腰のあたりに転がっていた臓物のぬらぬらとした感触は何処までも現実的に感じられた。


仰向けに倒れたまま、儂は握った其れを意味もなく口に含み、咀嚼する。


喉元を過ぎた辺りで、生理的な反応であるからか胃液が食道をせり上がってき、たまらず嘔吐した。


涙目になりながら酸っぱい臭いを否が応でも嗅ぐ破目になり、何をしているんだと自問自答しつつ、汚れた衣服を着替えるべく、今度は転ばない様に気を付けながら、風呂場へと向かった。


汲み置きの水を浴びるべく桶に手を伸ばそうとした際、別の物が手に当たる。



それは眼鏡であった。


何十年前かに無くした、儂の眼鏡であった。



産まれ落ちた時から視力が頗(すこぶ)る悪い儂にとって、本来この眼鏡の発見は僥倖に違いない幸運だったのだろうが、しかし今となっては何の意味も為さない。


むしろ靄のかかった視界を明瞭にした分、余計に罪の意識に苛まれてしまうのは自明の理であった。


それでも儂は、儂はきっと自暴自棄に陥っていたのであろうか――よしんば何か事態が好転するのではないのかという根拠のない淡い期待を抱いて、数十年ぶりに眼鏡を掛けて姿見鏡と向き合う。



微かな月明かりが射しこむ中、向かい合う鏡には。






あどけない顔をした眼鏡を掛けた少年が映っていた。





「は? え、何じゃ……こいつは誰……」


儂が右手で頬を撫でると、鏡の中の少年も同じ様に頬を撫でる。


儂が左手を眼前で振ると、鏡の中の少年も同じ様に手を振り返す。


唯一相違点を上げるならば、眼の部分が違うぐらいであるのだが、そこで儂は更に無視しがたい違和感を発見してしまう。



首の辺りが吐瀉物で濡れている他、



衣 服 の 前 面 が 全 く 汚 れ て い な い 。



あの時、異形らが土岐子へ得物を振り下ろした辺りで、喉が張り裂けんばかりに絶叫すると同時に儂の記憶は一旦ぷつりと途切れていた。


して正気に戻った時、儂の手には鉞(まさかり)が握られており、足元には数多のずたぎれになった肉片が転がっていた点を踏まえれば、きっとこの惨劇は自らが引き起こしたものだろうと考えられるが。


しかし、どうだろう。


七体以上の異形らと切った張ったの大立ち回りを 一 滴 の 返 り 血 を 浴 び る 事 無 く 演じるなどと、果たして運動神経皆無な儂に遂行出来るのであろうか。


人は普段無意識のうちに力を制御していると、いつかどこかで聞いた気もするが、仮にそれを差し引いたとて不可解な点は尽きる事はなく。


今の儂は普段となんら変わらず動き回れているが、そもそもこれがおかしい。


出会い頭に切り付けられた手の甲に、加えて先ほど打ち付けた後頭部以外に、特段痛みも感じていないのである。


筋肉の軋みなど毛ほどに感じず、且つ呼吸も鼓動も正常な現状は、文字通り異常に他ならない。


いよいよ訳が分からなくなってきた。


居ても立っても居られず、儂は洗面所を後にし、肉片が転がる土間へと足早に踵を返す。



千切れた四肢や胴体や頭部を避けながら、亡き土岐子が臥した寝具へと駆け寄ると、そこには、





苦悶の表情を浮かべた醜悪な老婆が事切れていた。





「は? ……えっ? だからっ、あんなガキもこんな婆も儂は知らないし……それより土岐子は何処に……?」




捲れた掛布団の下には、何時も土岐子が着ていた十二単の豪奢な着物が見えた。



何故かような醜女が儂の家にしかも土岐子の布団に寝ているのか全然全く一寸どころかこれっぽっちも分からない。



ぱたんっ。



障子近くの箪笥の上より、何かが落下する音が聴こえてきた。


振り返ると、そこには一冊の帳簿のような物が落ちていた。



既に囲炉裏の火は消え、相変わらず辺りは暗かったものの、夜目に慣れていた儂は辛うじて表紙の題名を読むことが出来た。





『飼育日記 㐧拾参號目』





断っておくが、儂は家畜は勿論の事、愛玩動物の類は飼っていない。


認識する中では――土岐子に於いても同様である。


同様である筈、なのに。



じわりと、嫌な汗が滲んだ。



もはや戻れる場所が無い程に何もかもが台無しになっているのは言わずもがな分かっている。


この帳簿の頁をめくり中身を読むことで、今以上に取り返しの付かない非情な事象が降りかかってきそうな、そんな予感があった。


最悪以上の災厄が、手ぐすねを引いて誘っているかのような、そんな幻視。


見たいが見れない。


見れないが見たい。


かような二律背反が儂の脳内にて、鎬(しのぎ)を削って鬩(せめ)ぎ合っている。



(駄目だ……見たらきっと……)



意に介さず、儂の手はあっさりと帳簿へ伸びていき、震える手で表紙をめくっ











































                そ



       だ




                        ろ


       ?
























いやだ嫌だイヤダ気持ち悪いどうしてイヤダ嫌だ気持ち悪いどうして嫌だどうして気持ち悪い嫌だどうしていやだイヤダ気持ち悪いキモチワルイきもちわるいどうしてイヤダいやだイヤダ嫌だ




































ナ ン デ コ ン 目 メ ニ 遭 ッ テ イ ル ノ ?






























痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い

  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い  痛い













































ヤメテ〓〓〓サン。







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(心の壊れる音)





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【続く】


・最終回(分岐)・


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