雑魚リーマンがギャンブル依存症を克服する為のブログ

ギャンブル依存症・安月給ザコリーマンが健常者へと歩む行動記録

メロンソーダの味は苦い【後編】

前置きというか、前回までのあらすじ。



身の丈に合わない、身の程を弁えない、そんな退廃的な行為に臨もうと、僕は10円ゲームを商いとする店へと足を踏み入れたのだった。



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そもそも10円ゲームは何かと言うと(これは当時の僕には這入るまではよくわからなかったのだが)店舗型の違法賭博の一形態であるらしい。



ここより更に10年程時を遡った際に爆発的に流行ったビデオゲーム内蔵テーブル(インベーダーゲームが代表的であるアレだ)をベースというか模したように作られている筐体は、中身の基盤を入れ替えるだけでポーカーなりブラックジャックなりスロットなりがプレイ出来るそうだ。



通常、最低のベット数は10円ながらも、スロットであれば絵柄の揃うラインの向きであったり、ポーカーであればコール・レイズ等のチップを加味すると、1ゲームあたりどんなにうまくやっても30-50円の費用を要するのだとか。



つまりは10円のみで1ゲームが成立しない――言い換えればそれだとまぁ勝てない。



ジャグラーで一枚がけを延々としながらGOGOランプの点灯を願うに等しい、愚行である(チェリー重複で光ることもあるらしいけど、まぁ確率としては微々細々たるものだし)



そんな10円ゲームとは名ばかりの青天井形式に、から手も同然な軍資金で挑もうとしていたのだから、片腹痛い僕であった。



あまりに滑稽過ぎて、片腹どころか業腹なくらいで、笑いすぎて扁桃腺が爆裂四散する位には、子供じみた浅はかな思考と行動であったと笑ってくれていい。



とにもかくにも、だ。



そんな事情をうら若き僕が知る筈もなく、生真面目な性分であれば成人した大人であろうとも決して足を踏み入れようとはしない、アングラな場所へとおっかなびっくり這入っていったのだった。



階段を下って、地下一階のドアを開ける。



間が悪いことに(のちの展開を考えれば良かったのかも)未だ開店前だった様で、店内は酷く薄暗い様相をかもし出していた。



照明は感暖色ながらもかなり弱々しくて、カウンター辺りの青と紫を基調とした電子的な光が、目に痛かった記憶がある。



(ここまできたらもう引き返せない)



そんな謎の使命感というか、義憤にも似た何かに駆り立てられていたのか、背筋を伸ばして胸を張りながら、電源が入り稼働している壁際の筐体へと僕は向かって、黒い皮が貼られた安っぽい椅子へと腰を下ろす。



電子の粗い、寂れた温泉街の休憩スペースにあるかの様な、チープな感じのデモ画面が流れていた。



自宅にあるWindows95ソリティアを辛うじて思い浮べながら、僕はおもむろに右ポケットにしまっていた小銭塗れでパンパンになっていたがま口(プレイステーションのゲームであるどこでもいっしょのリッキーというカエルのキャラがプリントされているそれは、財布の体をなしてはいるがやはり〝がま口〟と置き換えた方がしっくりとくる)を取り出しつつ、10円硬貨を投入するべき場所を探る。



この違法賭博が最盛期であった当時では、それこそ他を探せばあったのかもしれないけれども、自販機がごとく机のどこかに硬貨の投入口が設置してあったのは極々稀なパターンであったみたいで、だいたい殆どがまずは店員に頼み(千円単位で)現金をパッキーカードに替えた上で、遊戯に興ずる場合がほぼであったとか。



前述の後者パターンであったので、当然そんな場所は見つからないし、存在しなかったのだけれども。



本丸に辿り着きながらも、討ち取る対象(ゲームをプレイするという目的)を穿てないもどかしさにやきもきしていると、するとどうだろう。



対象ならぬ大将が出てきた。



勿論これは比喩というか暗喩というか、戦国時代よろしく甲冑を身に纏ったますらおのような屈強の男が登場した訳ではないのだが、ともあれ店奥のカウンターの暗がりから、男が現れた。



その際に、僕といえば投入口探索に躍起になっていたこともあり、斜め向かい側のパイプイスに腰掛けるまで存在を知覚出来なかった。



「コインを入れるところはねぇぜ、ぼうず」



低くくぐもった、それでいてよく耳に通る声を聞いたことで、僕は顔を上げた。



漆黒のサングラスに、ヘアースタイルはパンチパーマで、ドラマで観るようなバーテンダーっぽい服装にして、痩せぎすながらも体幹がしっかりとした、男だった。



暴力的な匂いに包まれている、というのが一見した感想といったところだろうか。



しかしながらこの瞬間の僕にはかような冷静な判断――正体不明の大人を文面で描写出来るような平常からは程遠く、突然の来訪者に酷く怯えていたのだと思う。



控えめに言っても、普通に死ぬかと思ったのだ。



中学受験になんとか合格した後の二年後――友人Kの叔父に襲われた時に比べると、直接的な暴力行為に訴えられた訳ではないにせよ、身の危険を感じていた。



(あっ・・・・・・やばっ・・・・・・)



レッドシグナルは点灯しっ放しで、サイレンにも似た警戒音が、脳内でガンガンと鳴り響いている。



そんな内面の緊急事態に構う事無く、男は紙煙草を取り出し火をつけ、紫煙を燻らせながら、僕へと語りかけ続けていた。



「はぁ。ったく冬ってのは始まりにしろ終わりにしろ、気が滅入っちまってよくねぇよな。寒いのは苦手だぜ、寝床に着く際にゃあ布団の温もりは掛け替えのねぇもんだが、“寒さ”が前提の“暖かさ”っつーのは得てして、不平等だと思わねぇか?」



初対面ないしはそこまで気が許せぬ隣人同士の会話の取っ掛かりとして、天気気候の話が無難だと言ったものの、その時の僕にはその問いかけが会話の体を為していなくて、ただ単に音として聞こえて内容はほぼ理解できないくらいには、気が動転していた。



「熱燗におでんが旨い季節ではあるんだがなぁ。ところでぼうず、お前名前なんていうんだ?」



サングラスを外しながら、男は僕に問うてくる。



切れ長で細い、刃みたいな双眸をしたその男は、金桐(かなぎり)という苗字だった。



たどたどしくも、なんとか僕は自分の名前をフルネームで告げた。



「そうか、良い名前だな。父ちゃん母ちゃんに感謝しなければならねぇ。ところで・・・・・・みたところ塾通いなんだろうけど、坊主はなんでここに来たんだっけな」



金桐は、先ほどの天気の話もそうだったのだが、どこか牧歌的でいて剣呑でない話題と喋り方だったにせよ、僕はそれが一層不可思議で、本能的な直感というか――確信じみたとある考えがあった。



(この人に嘘はつけない・・・・・・違うな、きっとついちゃいけない)



洋画であればギャング物で、邦画であればヤクザ物の映画はいくらか観たことがあって、作り物とは言え暴力を生業にする人種の怖さは重々承知していたつもりなのだけれども。



だけれども。



こ の 男 は 今 ま で 見 て き た ど の 人 間 よ り も 怖 い し、

や る と な れ ば 本 気 で や る 人 間 に 違 い な い 。



そう僕は思った。



だからこそ、金桐からの問いかけに正直に答え、且つ目線は一切外さないままに会話した。



大げさに言って、不実を働いた瞬間、拳が飛んでくる恐怖しかなかったのだから、なにぶん必死だったのだと思い返す。



問いかけに対する僕の答えを聞いて、満足したのか、金桐はおもむろに席を立ち、オレンジジュースが入ったガラスコップを僕の目の前に置いて、言う。



「悪いことは言わねぇから、それ飲んで帰んな。でもって、二度とここには来るんじゃねぇぞ。約束な」



ストローが刺さっていなかったのと、先ほど散々寒いのが嫌だと言っていたにもかかわらず氷でキンキンに冷やされたジュースを吸い込みながら、僕は逃げるようにその店を後にした。



さよならは、言わなかった。


)-()-()-()-()-()-()-()-()-(


埃っぽい、それでいて煙草のヤニの臭いが満ち溢れていた閉鎖空間より抜け出した後、僕は塾には向かわず、少し離れた箇所にあるファストフード店に這入っていった。



19:30から始まるカリキュラムの終了時刻は21:30であり、それまでの時間を潰すことにしたのだ。



いわゆるサボリという奴である。



語源がサボタージュの短縮形などとは露も知らず、というか露が滴るくらいにさめざめと。



僕は奥の席で泣いてしまっていた。



それが恐怖によるものなのか、または安堵によるものなのか、単純には言い表せない複雑な感情の渦が押し寄せてきていて、それに耐え切れず、声を殺して僕は泣いていた。



つらいとか悲しいとか、マイナス感情だけとは決して言い切れないそれは初めて体験するものだったし、案外この世に生を受けた際の産声を上げていた最中にも、同様の感覚にあったのかもしれないが、そんなことは戯言に過ぎないし、それ以前の問題な気がする。



肩をぷるぷると震わせながら、半刻ばかり放置したドリンクの氷は溶けきっていて。



大好きなはずのメロンソーダは、



吐きそうになるぐらい苦かったのを覚えている。



【終わり】



本日もお時間をいただき、ありがとうございました。




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